最初のピリオドまでが長いので、
前半のカンマのところまでまずは取り組んでみたいと思います。
est
Wikipediaのように何かを説明するものはだいたい、
奇をてらってなければ
「これこれはこういうものです」って表現になるかと思います。
つまり、This is a pen.(これはペンです)みたいなものですね。
Iaponiaの次のestは、英語でいうところのisと同じで、
ラテン語版be動詞の三人称単数形です。
ラテン語のbe動詞は英語より複雑に変化するので、それはまた後ほど。
これで
Iaponia est civitas sui iurisで(日本は主権国家体制です)となるわけです。
in
では次です。
inは前回の辞書編で「〜で」という訳がありました。
ここで思い出して下さい、<+abl>となっていたことを。
はい、ここでようやく格変化の登場です。
このablは、ラテン語の格の1つ、「奪格(だっかく)」の略です。
inを「〜で」という意味で使うためには
inの後に続く語たちを「奪格」という形にしないといけません。
では、inの後に続く語、Asia Orientaliを、
Wikiで訳がわかったので放置していましたが、これも辞書で調べてみましょう。
Asiaは
Asia -ae, f
となってます。女性名詞なんですね。
Orientaliも調べましょう。
こちらはそのまま見出しには載っていないのですが、
Orientalisという単語が「東の」という形容詞として載っています。
Asiaが女性名詞なので、Orientalisも女性形になっているんですね。
あれ、前回のpermultus -a -umのように、
形容詞は3つの語尾パターンが見出しにあるんじゃないの?って話ですが、
こういうパターンもあるのです。
これは、男性形と女性形が同じ場合にこうなります。
男性形と女性形で形が同じなので、
このパターンの形容詞だったら
変化パターンを覚えるのが少し楽になるかと。
ところで英語で「東アジア」を表記するとEast Asiaで
形容詞のEastは名詞の前に来るのが一般的ですが、
ラテン語は後ろに置くのが一般的なようです。
このあたりは他のヨーロッパ言語では馴染みがありますね。
さて。女性形はいいですけど、奪格はどこにいったんだと。
Asiaは見出しと同じだけどいいの?と。
見出しは主格だったはず。同じ形なの?と。
はい、形は同じです。「形」は。
このあたりはまた後で説明するとして、
とりあえず今は、女性名詞は主格と奪格が同じ綴りとしておきましょう。
ただし残念ながらOrientalisの方はそういうわけにはいきません。
Orientalisが女性形で、その奪格がOrientaliと最後のsが取れてしまいます。
まあ、sが取れるだけなら簡単な方です。ひとまずそういうことにしておきましょう。
posita
前半最後の1語です。positaはponereの過去受動分詞、女性形でした。
ponereは「置く」という意味がありました。
過去受動分詞なので「〜された」、ここでは「置かれた」という意味になります。
では、なぜ女性形なんでしょう。
Asiaが女性名詞だからそれと一致して?
となればいいのですが、
先のin Asia Orientaliはこのまとまりで「東アジアに」となっています。
過去受動分詞を解読するには、「何が」置かれたのか、を考る必要があります。
東アジアに「何が」置かれたのか。
今まで見てきた名詞だと「日本」「国家主権体制」のどちらかの可能性に絞れますね。
ここでちょっと補足。
国家主権体制を表すcivitas sui iurisですが、
これは、civitas、「国家」という名詞を
sui iurisという語句で後ろから説明している形式です。
なので、ここではメインの語はcivitasだとしておきましょう。
positaが女性形なので、
この2つの名詞のうち、女性名詞が候補になります。
civitasは前回見たとおり女性名詞でした。
「日本」を表すIaponiaが男性名詞か中性名詞であれば
positaはcivitasを説明している、でファイナルアンサーです。
しかしながら、Iapiniaも女性名詞なのです。
「日本が東アジアに置かれた」
これでも意味が通りそうですね。うーん。
しかし、ここで文の構造を見てみることにします。
このように、
estのところで文が大きく2つに分かれていて、
in以降の語は、その直前にある名詞、civitas sui iurisを説明している、
と見るのが自然です。
前半の訳
この結果、前半の文は
「日本は、東アジアに置かれた国家主権体制です」
という解釈になります。
長い…